目的を先に決める
高い版を買うかどうかで迷う人は、たいてい二つの目的を混ぜています。読むために買うのか、持つために買うのか。この二つは求める条件が違うので、混ぜたまま考えると答えが出ません。
読むためなら、文庫が最良の選択であることは珍しくありません。安く、軽く、註と解説がつく。持つためなら、条件は綴じと紙と函になります。次の表は、その差を並べたものです。
長く持つことを前提に作られた本には、共通の条件があります。糸かがり綴じ、中性紙、函。この三つを見る癖がつくと、十年後に読み返せる本を選べるようになります。
高い版を買うかどうかで迷う人は、たいてい二つの目的を混ぜています。読むために買うのか、持つために買うのか。この二つは求める条件が違うので、混ぜたまま考えると答えが出ません。
読むためなら、文庫が最良の選択であることは珍しくありません。安く、軽く、註と解説がつく。持つためなら、条件は綴じと紙と函になります。次の表は、その差を並べたものです。
| 版のかたち | 中身の特徴 | 造本 | 向いている目的 |
|---|---|---|---|
| 文庫 | 本文に註と解説 | 並製、無線綴じが多い | 読む。持ち歩く |
| 単行本 | 本文のみ、初出の形 | 並製または上製 | 出たときに読む |
| 選集 | 代表作を選んで収める | 上製が多い | その作家を一通り読む |
| 個人全集 | 単行本未収録の短文や書簡も | 上製、函入り、月報つき | 調べる。読み尽くす |
| 愛蔵版 | 本文は同じことが多い | 大判、上製、装丁に費用 | 物として持つ |
全集は、読むためというより調べるための器です。単行本にも文庫にも入らなかった文章がここにしかない、という点にいちばんの価値があります。
ひとりの著者の仕事をまとめたものです。小説だけでなく、雑誌に一度載ったきりの短文、書簡、日記、未完の草稿まで収められます。研究の基礎になる版なので、註と校訂が厚く、同じ作家の全集が時代ごとに何度も作り直されることがあります。
複数の作家を一つの構想でまとめたもの。誰を入れて誰を外すかという選択そのものが編集の主張になります。池澤夏樹が個人編集した『世界文学全集』二〇〇七年から二〇一一年、『日本文学全集』二〇一四年から二〇一八年は、それぞれ全三十巻で、選び方に一貫した意思が通っている近年の例です。
全集の各巻に挟み込まれる薄い冊子です。同時代の作家や研究者が寄せた短文が載っていて、本文には書かれていない事実が出てくることがあります。捨てられやすいので、古書で全集を買うときは月報が揃っているかを必ず確かめてください。
全集は場所も費用もかかります。代表作を選んで数巻にまとめた選集なら、負担が小さいまま同じ体験の八割が得られます。全集を買うかどうかは、選集を読み終えてから決めても遅くありません。
完結した全集は、古書市場で全巻がひとまとまりで出ます。新刊で揃えるより大幅に安く、状態のよいものも珍しくありません。ただし配送の重量と、置き場所の確認が先です。探し方は本はどこで買うかにまとめました。
全集は巻ごとに単独で売られていることがありますが、あとから残りを揃えようとすると、欠けた巻だけが高くなります。揃える意思がないなら、その作家の文庫を買うほうが結局は安く済みます。
装丁の豪華さと寿命は関係ありません。決めているのは、綴じ方と紙という地味な二つです。書店で本を開けば、どちらも数秒で確かめられます。
折った紙束を糸で縫い合わせる綴じ方です。平らに開き、開き癖がついても崩れません。見分け方は簡単で、本を大きく開いて中央を覗くと、糸が渡っているのが見えます。
背を接着剤で固める方式。安く速く作れるので、文庫と一般の単行本の多くがこれです。年月が経つと接着剤が硬化して背割れが起き、頁が抜けることがあります。
かつて広く使われた酸性紙は、紙自身の酸で劣化して茶色くなり、脆くなります。日本では一九八〇年代から中性紙への切り替えが進みました。古い文庫の茶色さは、保管の失敗ではなく紙の性質です。
函は本体を収める箱、帙は和装本を包む覆いです。どちらも日焼けと擦れを防ぎます。装飾に見えて、実際には保存の道具として機能しています。
その本を、これまでに二回以上読み返しましたか。答えが「いいえ」なら、まだ早い。愛蔵版の値段の大半は装丁と判型に払われていて、本文はたいてい同じです。造本の各部の名前は本の言葉にまとめてあります。
高い版を買っても、置き方が悪ければ十年で傷みます。費用のかからない対策だけを並べます。
その作家の本を三冊以上読み、まだ読み足りないと感じているなら価値があります。そうでなければ、読まない全集より読む文庫のほうが得です。全集の本当の価値は、単行本にも文庫にも入らなかった短文や書簡が収められている点にあり、そこに手が伸びる段階まで来ていない人には宝の持ち腐れになります。
綴じ方と紙です。糸かがり綴じは平らに開き、開き癖がついても崩れません。無線綴じは接着剤で背を固めるので、年月が経つと背割れが起きます。紙については、かつて広く使われた酸性紙が自身の酸で劣化するのに対し、一九八〇年代から普及した中性紙は長く保ちます。装丁の豪華さは、この二つとほとんど関係がありません。
実用として有効です。函は本体を日焼けと擦れから守るので、同じ年月を経た本でも函入りのほうが状態がよく残ります。古書として手放す場合も、函の有無で評価が変わります。ただし出し入れのたびに函の口が傷むので、頻繁に読む本を函に戻し続けるのは現実的ではありません。
紙の劣化は起きませんが、別の問題が残ります。多くの電子書店で買っているのは、その仕組みの上で読む権利です。書店が閉じれば読めなくなる可能性があります。紙は物理的に劣化する代わりに、誰の許可も要らずに三十年後も開けます。どちらにも弱点があると理解したうえで使い分けてください。
全集や専門書は、一般の古書店より、その分野を扱う店に持ち込むほうが評価されます。宅配買取を使う場合も、扱い分野を確かめてください。月報と函と帯が揃っているかどうかで金額が変わるので、まとめて出す前に確認する価値はあります。