AkaneBooks 本を読むための机
総目次

ジャンル手帖 全五巻

書店の棚は出版社の都合で分かれています。読む側の都合で分け直すと、日本の本はだいたい五つに収まりました。物語、記録、考えかた、日常、絵。その総目次です。

総目次・二〇二六年八月更新・読み終えるまで約八分

書棚を横から見た一列。文庫、新書、四六判の単行本、随筆集、漫画の単行本が五つのかたまりに分かれて並んでいる
同じ棚の一列に、五種類の読む姿勢が同居しています。分類の目的は整頓ではなく、次に手を伸ばす先を減らすことです。

なぜ五つなのか

書店の分類は、文芸、実用、人文、コミック、児童、と分かれています。売り場としては合理的ですが、読む側の感覚とは半分しか一致しません。たとえば随筆は文芸と実用の両方に散らばり、評伝は人文にも文芸にも置かれます。

そこでこの手帖では、内容ではなく読む姿勢から分けました。腰を据えて物語に入るのか、事実を確かめに行くのか、考え方を仕入れるのか、断片を拾うのか、絵で読むのか。姿勢が決まれば本は選べます。逆に言えば、姿勢を決めないまま棚の前に立つから選べないのです。

五つの棚の見分け方
読む姿勢 一冊の目安 向いている時間帯
第一巻 小説 物語のなかに入る 二百から四百ページ まとまった時間がある日
第二巻 ノンフィクション 事実を確かめに行く 三百ページ前後 集中力のある午前
第三巻 人文書と新書 考え方を仕入れる 二百ページ前後 通勤の往復
第四巻 随筆と日記 断片を拾う 一編五ページ 疲れている夜
第五巻 漫画とライトノベル 絵と速度で読む 一巻二百ページ いつでも
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全五巻

五巻は独立しています。順に読む必要はなく、いま気になっている棚から開いてください。それぞれの巻には、その棚の歴史と、読む順番と、つまずきやすい点を入れてあります。

第一巻

小説を読む

二葉亭四迷の言文一致から、漱石と鴎外、戦後の三島と安部、そして現在の芥川賞まで。日本の近代小説がどう変わってきたかを、読む順番の話として書きました。純文学と大衆文学の線引きについても、実際のところを扱っています。

物語の棚・約十二分

第二巻

ノンフィクションを読む

評伝、ルポルタージュ、記録文学、紀行、調査報道。事実に取材した本には五つの型があり、型が分かると信用してよい本かどうかが見分けられます。小説より遠くまで連れて行ってくれる本の探し方。

記録の棚・約十一分

第三巻

人文書と新書を読む

哲学も歴史も社会科学も、入口はほとんど新書です。一九三八年の岩波新書が何を始めたのか、レーベルごとに性格がどう違うのか、そして概説から原典へ進むときの順番。挫折しないための最短経路。

考えかたの棚・約十一分

第四巻

随筆と日記を読む

『枕草子』『方丈記』『徒然草』から、寺田寅彦、向田邦子、須賀敦子、現代のエッセイまで。日本語がいちばん長く続けてきた形式です。何も起きない文章を面白く読むための、ごく実際的な手引き。

日常の棚・約十分

第五巻

漫画とライトノベルを読む

掲載誌が読者層を決め、読者層が絵柄と速度を決めてきました。その仕組みと、単行本、文庫版、完全版、愛蔵版の違い。どの版を買えば後悔しないか、そして電子と紙のどちらで読むべきか。

絵の棚・約十一分

補遺

どの棚にも入らない本

歌集、句集、詩集、写真集、図鑑、辞書。五つの分類から必ずこぼれる本があります。共通するのは、通読するものではなく、置いておいて何度も開くものだという点です。棚ではなく、机の上に置く本と考えるほうが正確です。

分類の外側

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棚をまたぐ本

分類は道具であって、正解ではありません。実際には、二つの棚にまたがる本のほうが面白いことがよくあります。

  • 記録文学。事実に取材しながら、小説の技術で書かれた本があります。第一巻と第二巻の両方に属していて、どちらの棚から入っても読めます。事実を書いているのに文体が主役になる、という珍しい場所です。
  • 評伝。ある人物の生涯を追う本は、伝記でもあり歴史でもあり、うまくいけば小説の強度を持ちます。人物から時代を見る読み方は、概説書を十冊読むより速いことがあります。
  • 紀行と随筆。旅の記録は第二巻にも第四巻にも置けます。どこまでが取材でどこからが感想かという線引きが、書き手ごとにまったく違うのが読みどころです。
  • 実話をもとにした漫画。第五巻の棚にありながら、内容は記録です。絵で描かれた記録は文字より速く伝わることがあり、そのぶん取材の質が問われます。
  • 古典の現代語訳。第一巻の小説でもあり、第三巻の人文書でもあります。訳者が変われば別の本になるので、どの訳で読むかは書名と同じくらい重要です。

どの巻から読むか

迷ったときの順路を三つ書いておきます。どれも実際に机の上で試したものです。

  • 読書を再開したい人。第四巻の随筆から入ってください。一編が短く、途中でやめても構わないので、読む習慣が戻ります。そのあと第一巻の小説へ。具体的な一冊は最初の一冊にあります。
  • 知識を仕入れたい人。第三巻の人文書と新書から。新書は一冊で一つの主題を説明しきる器なので、投じた時間に対する見返りがいちばん大きい形式です。そのあと関心のある分野の第二巻へ。
  • 物語を読みたい人。第一巻の小説から。ただし代表的な長編ではなく、短い作品から入ってください。文体に慣れる時間を短くするのが要点です。夜の時間で選ぶなら夜ふけの一冊が使えます。

五巻を通読する必要はありません。この手帖は最初から最後まで読むためではなく、棚の前で迷ったときに開くために作ってあります。

よくある質問

ジャンル手帖はどの巻から読めばいいですか

五巻は独立しているので、いま気になっている棚から読んで構いません。順路を決めたい場合は、物語が好きなら第一巻、知識を仕入れたいなら第三巻、読書そのものを再開したいなら第四巻から始めるのが確実です。第五巻は他のどの巻のあとに読んでも成立します。

書店の分類と違うのはなぜですか

書店の分類は取次と版元の都合でできていて、読む側の感覚とは半分しか合っていないからです。文芸と実用が分かれているのに、随筆はその両方に散らばります。この手帖は読む姿勢のほうから分け直しているので、売り場の地図ではなく、次に手を伸ばす先を決めるための道具として使えます。

純文学と大衆文学はどう違うのですか

作品の性質というより、掲載誌と賞の系統による区分です。芥川賞は新人の純文学、直木賞は中堅の大衆文学を対象にすると説明されますが、実際の作品を並べると境目はかなり曖昧です。読む側にとっては、どちらの棚に置かれているかより、その本の速度が自分に合うかどうかのほうが重要です。詳しくは第一巻で扱いました。

漫画は本に含めていいのですか

この机では含めています。判型があり、奥付があり、版と刷があり、古書として値がつく。物としての本の条件はすべて満たしています。読む速度と、絵が担う情報量が違うだけです。ただし同じ姿勢では読めないので、第五巻として別に立てました。