厚さではなく、時間で選ぶ
本を選ぶとき、ほとんどの人は主題から入ります。ところが挫折の原因になるのは主題ではなく長さです。面白い本でも、二百ページを超えると中盤で一度は必ず失速します。そこを乗り越えられるのは、すでに読み切った経験を何度も持っている人だけです。
だから最初に決めるのは書名ではなく、今週その本に使える時間です。時間が決まれば、選ぶべき厚さが決まります。
読書が続く人は、意志が強いわけでも時間があるわけでもありません。選び方の癖が違うだけです。その癖は七つに分けられて、どれも今日から真似できます。
本を選ぶとき、ほとんどの人は主題から入ります。ところが挫折の原因になるのは主題ではなく長さです。面白い本でも、二百ページを超えると中盤で一度は必ず失速します。そこを乗り越えられるのは、すでに読み切った経験を何度も持っている人だけです。
だから最初に決めるのは書名ではなく、今週その本に使える時間です。時間が決まれば、選ぶべき厚さが決まります。
| 使える時間 | 選ぶもの | 目安の分量 | 読み終えた感じ |
|---|---|---|---|
| 十五分 | ショートショート、短編一本 | 五ページから二十ページ | 一本で完結する |
| 一時間 | 新書の一章、随筆を数編 | 三十ページ前後 | 続きから戻れる |
| 一晩 | 薄い文庫、短編集一冊 | 百五十ページ以下 | 読み切った実感が残る |
| 三日 | 近代の代表的な中編 | 二百から三百ページ | その作家の文体が体に入る |
| 一週間以上 | 長編、上下巻 | 四百ページ以上 | 途中でやめる余地を作っておく |
本を読む人と読まない人の差は、才能でも教養でもありません。次の七つのうち、いくつを習慣にしているかです。順番に効くわけではないので、いちばん抵抗の少ないものから一つだけ試してください。
図書館で三冊借りると、費用はゼロ、返却日という締切がつき、合わなかった本を捨てる罪悪感もありません。三冊のうち一冊が当たれば十分です。この方法をとると、選書が下手なままでも読書量だけが増えます。
続きが出るかどうか分からない本は、途中で止まったときに読者のせいなのか出版の都合なのか分かりません。すでに全巻そろっている作品、すでに評価の定まった一冊。最初のうちは、それだけを選ぶほうが確実です。
合わない本を我慢して読む習慣は、読書そのものを苦役に変えます。最初に「五十ページ読んで駄目なら閉じる」と決めておくと、逆に手が伸びます。閉じた本は失敗ではなく、いま読む本ではなかっただけです。
物語を一冊、事実を書いた本を一冊、どこから開いてもよい随筆を一冊。疲れている日でも、三冊のうち一冊は必ず気分に合います。読まない日が減るので、結果として一冊あたりの読了は早くなります。
時間ではなく場所で決めるほうがうまくいきます。電車の座席、風呂上がりの椅子、寝る前の枕元。その場所に一冊置いておくだけで、意志の力を使わずに読み始められます。判型を場所に合わせるのも有効です。
要約は要りません。面白かった場面か、腹が立った箇所を一行。それだけで内容の輪郭が残り、半年後に人に薦められるようになります。書くことが目的化すると続かないので、一行を超えないのが肝心です。
一冊目は文体に慣れるのに使われ、二冊目でようやく内容が入り、三冊目で癖が見えてきます。同じ作家を続けて読むと、読書の速度そのものが上がります。作家から入る読み方ははばたく書き手たちで扱いました。
読んでいない本が棚にあるのは失敗ではありません。読みたくなったときに家の中に候補があるという、それだけの意味です。負い目を感じ始めると本屋に行くのが憂鬱になるので、その考え方は早めに捨ててください。
検索は探している本しか見つけてくれません。書店と図書館の棚を十分だけ眺める習慣があると、自分が探していなかった本に当たります。どの店の棚が信用できるかは買う場所の記事にまとめました。
基準だけ示して終わるのは不親切なので、実際の候補を挙げます。どれも薄く、完結しており、途中でやめても構いません。著作権が消滅している作品は青空文庫でも読めるので、今夜そのまま試せます。
二十ページ足らずの短編です。何も起きないのに、丸善の書棚に檸檬をひとつ置いてくるという行為だけが忘れられなくなります。日本語の短編がどこまで密度を上げられるかを、最短の距離で確かめられます。
近代文学を敬遠している人に、最初に渡すべき一冊です。文体は軽く、話は速く、百年以上前の小説だという事実をほとんど意識させません。漱石はここから入って、あとで『こころ』へ進むのが順路です。
一本が数ページで完結し、落ちがあり、古びません。読書の筋力が落ちている時期に、読み切る感覚を取り戻すための道具として優秀です。文庫一冊に数十本入っているので、途中でやめても損がありません。
一編が数ページの随筆集です。昭和の家庭の記憶を書いているだけなのに、読み終わると自分の家の記憶まで掘り返されます。どこから開いてもよく、読みかけのまま置いても罪悪感がありません。
記憶が八十分しかもたない数学者と家政婦の話です。二〇〇四年に始まった本屋大賞の、第一回の受賞作でもあります。数学が主題なのに数式の知識は要らず、読み終えたあと、素数を見る目が変わります。
辞書を作る人たちの話です。地味な題材を面白く読ませる本がどういう仕組みでできているか、その見本のような一冊で、二〇一二年の本屋大賞を受けています。本そのものが好きになる副作用があります。
読書について広く信じられていることのうち、初心者を確実に潰すものが四つあります。全部やめて構いません。
厚い本を選んでいる可能性が高いです。二百ページを超える本は、面白くても中盤で一度必ず失速します。まずは百五十ページ以下の中編か短編集を選び、最後まで到達した経験を作ってください。読み切る感覚が戻れば、厚い本は自然に読めるようになります。挫折の原因は根気ではなく、選書の段階にあります。
名作の中でも短いものから読んでください。古典が難しいのは中身ではなく、多くの場合は長さと文体です。同じ作家でも、代表的な長編ではなく短編から入れば、文体に慣れる時間が短くて済みます。漱石なら『こころ』より『坊っちゃん』、鴎外なら『舞姫』より『高瀬舟』のほうが入口としては軽い。所要時間別の並びは夜ふけの一冊にあります。
忘れて構いません。読んでいる最中に何かが動いたのなら、それはもう起きたことです。それでも残したいなら、読み終えた直後に一行だけ書いてください。要約ではなく、面白かった場面か、腹が立った箇所を一つ。半年後にその一行を読むと、驚くほど本文が戻ってきます。
むしろ性質の違う三冊を並行させるほうが続きます。物語を一冊、事実を書いた本を一冊、どこから開いてもよい随筆を一冊。疲れている日でも一冊は気分に合うので、読まない日が減ります。混乱するのは、似た本を同時に読んだときだけです。
薦めるより、大人が読んでいる姿を見せるほうが効きます。そのうえで、自分で選ばせてください。親が選んだ本は課題になり、自分で選んだ本は遊びになります。図書館で自由に三冊選ばせて、中身には口を出さないのがいちばん確実です。