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目利き

初版第一刷の見分け方

巻末の数行を読めるかどうかで、古書の目録の見え方が変わります。版と刷の違いを一度理解すれば、その知識は生涯使えます。

実務・二〇二六年八月更新・読み終えるまで約十分

本の巻末に開かれた奥付の頁。書名、著者名、発行所、発行日と刷数の行が縦組みで並んでいる
奥付は本の身分証明書です。発行日の下に並ぶ行の数が、その本が何度刷られたかを示しています。

短い答え

巻末の奥付を見てください。発行日の行に「第一刷発行」または「初版発行」とだけあり、その下に何も足されていなければ、それが初版第一刷です。刷りを重ねた本では、下に第二刷、第三刷と行が増えていきます。

奥付とは何か

日本の本には、巻末に奥付という記録の欄があります。欧米の本では権利表示の頁が前のほうにありますが、日本語の本では伝統的に最後です。ここに書かれるのは、おおむね次の項目です。

  • 書名と著者名。本文の扉と同じ表記が入ります。共著や編著の別、訳者名もここで確認できます。
  • 発行日と刷次。この記事の主題です。「二〇二六年八月十九日 第一刷発行」のように書かれます。
  • 発行者と発行所。版元の名前と所在地。
  • 印刷所と製本所。刷った会社と綴じた会社。同じ版元の本でも作品ごとに変わります。
  • ISBN。二〇〇七年から十三桁になりました。それ以前の本は十桁で、日本の本は数字の四から始まります。
  • 定価。本体価格と税の表記。古い本では、この数字がそのまま時代の目印になります。

古い本には、著者の印が押された小さな紙が貼られていることがあります。検印と呼ばれ、部数を著者が確認するための仕組みでした。昭和の途中でほとんど廃止され、いまは「検印廃止」と記されるか、記載そのものがありません。古書店で検印紙を見つけたら、それだけで刊行時期がおおよそ絞れます。

版と刷は別のもの

ここが理解の中心です。混同したまま古書を買うと、必ずどこかで損をします。

版と刷の違い
 
何を指すか 組版そのもの その版で刷った回数
変わるとき 本文を直した、組み直した 在庫が減って刷り増した
本文は 変わっている可能性がある 原則として同じ
奥付の書き方 第二版、改訂版、増補版 第二刷、第三刷
引用するとき 必ず指定する 指定しなくてよいことが多い

したがって初版第一刷とは、最初の組版で最初に刷られた分という意味です。ちなみに、刷を重ねるときに誤植だけを直すことがあります。これを俗に「刷り直しの訂正」と呼び、厳密には本文が変わっているのに刷数しか変わらない、という状態が生まれます。学術的な引用で刷まで書く人がいるのは、この可能性を潰すためです。

実際の見分け方

店頭でも古書の目録でも、次の順に確かめれば二分で判定できます。

  • 奥付を開く。巻末の最後の頁か、その一枚手前にあります。
  • 発行日の行を数える。行がひとつなら第一刷、複数なら最後の行がその本の刷次です。
  • 「版」の表記を探す。改訂版、増補版、新装版とあれば、それは別の版です。初版とは呼びません。
  • ISBNの桁数を見る。十桁なら二〇〇六年以前、十三桁ならそれ以降の本です。
  • 定価の表記を見る。税の書き方は制度の変更で何度か変わっているので、刊行時期の裏づけになります。
  • 帯があるなら文言を読む。増刷や受賞に触れていれば、その帯は初版のものではありません。

奥付に「初版」と書かない版元

すべての版元が初版と明記するわけではありません。単に「発行」とだけ書き、二刷目から刷数を足していく方式もあります。その場合、行がひとつしかないことが初版第一刷の証拠になります。

初版に値段がつく条件

ここが誤解の多いところです。初版だから高い、ということはありません。ほとんどの本の初版には、二刷との差がまったくつきません。値段が動くのは、次のいずれかに当てはまる本だけです。

  • その後、増刷されなかった。供給が初版の部数で止まっている本です。当時売れなかった本が、後年になって評価されるとこうなります。
  • 著者が後に有名になった。デビュー作や初期の著作は部数が少なく、その作家が広く読まれるようになると需要だけが増えます。
  • 改訂で本文が変わった。初版にしかない章や記述がある場合、資料としての価値が生まれます。研究者が探すのはこの型です。
  • 装丁が初版だけ違う。後から装丁が変わった本では、初版の造本そのものが対象になります。
  • 署名や書き込みがある。著者の署名入り、あるいは献呈署名のある本。これは初版かどうかとは別の軸ですが、実際にはよく重なります。

逆に言えば、この五つに当てはまらない本の初版は、読むための本としてしか価値がありません。それで十分です。買う目的が読むことなら、刷数は気にせず、状態のよい安いものを選んでください。

帯、函、署名。本体以外の条件

古書の値段を動かすのは、本文よりも周辺の付属物であることが多いのです。

  • 帯。カバーの下三分の一に巻かれた紙です。刷ごとに文言が差し替えられる消耗品なので、初版に巻かれていた帯は後から手に入りません。目録に「帯付」とあるのは、この一枚のためです。
  • 函。本体を収める箱。全集や愛蔵版に多く、日焼けと擦れから中身を守ります。函がないと「函欠」と表記され、値段が下がります。
  • 月報。全集などに挟み込まれる小冊子。捨てられやすいので、揃っていると評価されます。
  • スリップ。書店用の伝票なので、あってもなくても値段には効きません。挟まったままなら、その本が一度も棚を出ていない可能性の目印にはなります。
  • 署名。著者の署名は値段に直結します。ただし、宛名の入った献呈署名は市場では評価が分かれます。

古書の状態表記を読む

目録の短い言葉は、慣れれば写真より正確です。よく使われるものを挙げておきます。

  • 美本。ほぼ新品同様。読んだ形跡がほとんどない状態。
  • 並。普通の古書。年相応の使用感がある状態で、目録でいちばん多い表記です。
  • ヤケ。日焼けによる変色。天ヤケ、小口ヤケ、カバーヤケと場所が明示されます。
  • シミ。茶色の点や染み。湿度の影響で出ます。
  • 線引き、書き込み。前の持ち主の痕跡。学術書では珍しくありません。
  • 蔵書印、除籍本。個人や図書館の印。除籍本は安く出ますが、貼付物が残っていることがあります。
  • 落丁、乱丁。頁が抜けている、順序が違う。新刊なら版元が交換します。

安い出品には必ず理由が書いてあります。書いていない安さのほうを疑ってください。造本の各部の呼び名は本の言葉に、探す場所は本はどこで買うかにまとめてあります。

よくある質問

初版かどうかはどこを見れば分かりますか

巻末の奥付です。発行日の行に「第一刷発行」または「初版発行」とあれば初版第一刷です。刷りを重ねた本では、その下に第二刷、第三刷と発行日が追加されていきます。行がひとつしかなければ、それが最初の刷です。版元によっては初版と明記せず、二刷目から刷数を足していく方式もあるので、その場合も行の数で判断できます。

初版本は高く売れますか

ほとんどの本では値段がつきません。初版が価値になるのは、需要が供給を上回っている一部の本だけです。その後増刷されなかった、著者が後年に評価された、改訂で本文が変わった、装丁が初版だけ違う。このいずれかに当てはまる本ではじめて、初版という条件が効いてきます。手持ちの本の値段を知りたい場合は、古書の横断検索で同じ書名を引き、状態と刷数の近い出品を三件比べるのが確実です。

版と刷はどう違うのですか

版は組版そのもの、刷はその版で何回目に刷ったかです。内容を直して組み直せば第二版、まったく同じ内容を刷り増しただけなら第二刷になります。研究や引用で版を指定するのは、版が変われば本文が変わる可能性があるからです。文庫化も新しい版にあたるので、単行本と文庫で頁が一致しないのは当然のことです。

帯があるかないかで値段は変わりますか

変わる本があります。帯は刷ごとに文言が差し替えられる消耗品で、初版に巻かれていた帯は後から手に入りません。古書の目録で帯付と明記されている本は、その一枚のために値がついています。読むだけなら邪魔ですが、手放す可能性が少しでもあるなら、本の最後の頁に折って挟んでおいてください。

買った本が落丁していました

新刊であれば、版元が交換に応じます。多くの本の奥付の近くに、落丁乱丁の場合は取り替える旨が印刷されています。買った書店に持ち込むのがいちばん早く、ネット書店で買った場合も同様の対応が用意されています。古書の場合は、目録に記載がなければ出品者に連絡してください。

06

棚の本を確かめてみる

知識は使ってはじめて定着します。手元の本で、次の四つを試してください。十分で終わります。

  • いちばん古い本の奥付を開く。刷数の行が何行あるか数えてみてください。三行以上あれば、その本はよく売れた本です。
  • 同じ作品の単行本と文庫を比べる。頁数、解説の有無、あとがきの追加。同じ書名でも別の本になっていることが確かめられます。
  • いちばん新しい本のISBNを見る。十三桁のはずです。九七八のあとの四が、日本語圏を示す数字です。
  • 帯が残っている本を探す。文言を読んでみてください。増刷や受賞に触れていれば、それは初版の帯ではありません。